座長 小松 知子(神奈川歯科大学)

オーラルヘルスサポート歯科すみだ
関野 仁(せきの じん) 先生
【略歴】
1998年3月 東京歯科大学卒業
1998年4月 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯周病学)
2002年5月 東京都立心身障害者口腔保健センター勤務
2015年4月 東京都立心身障害者口腔保健センター 診療部治療室長
2018年1月 東京歯科大学 博士(歯学)取得
2022年7月 稲垣歯科医院勤務
2023年8月 オーラルヘルスサポート歯科すみだ開設
東京歯科大学歯周病学講座非常勤講師
日本歯周病学会専門医、評議員
日本障害者歯科学会認定医、専門医、代議員
日本障害者歯科学会研究活動委員会委員
日本障害者歯科学会診療ガイドライン作成委員会委員(~2024)
Down症候群の歯周病治療における理論と実際
「歯周病」とは歯を支える4つの歯周組織(歯肉、歯槽骨、歯根膜、セメント質)の病変の総称です。歯周病は大きく2つに分類され、ひとつは歯肉に炎症が限局した「歯肉炎」、もうひとつは歯槽骨が吸収し歯周ポケットを形成する「歯周炎」です。どちらも主な原因は歯垢(プラーク)の中に存在する歯周病菌ですが、歯周炎の方が多くの病因(リスクファクター)が関連するため、治癒させることは非常に困難となります。
歯周炎を進行させるリスクファクターの代表的なものとして、咬合(かみ合わせ)、糖尿病、喫煙があげられますが、Down症候群もまた、歯周炎のリスクファクターとして知られています。私の専門分野である障害者歯科分野では、Down症候群の歯周炎は大きな臨床課題のひとつになっています。Down症候群の歯周炎は若年期に発症して、急速に進行することが特徴であり、その理由として歯周病菌の早期定着や免疫異常が報告されていますが、確定的なものは未だわかっていません。もちろん歯磨きの徹底が難しいという根本要因もありますが、私の臨床経験から、咬合や歯根の形態異常は大きく関連すると考えています。
これまでのDown症候群に対する歯周病の対応は、治療ではなく歯周病が発症する前の予防が大切であると言われてきました。歯周病に罹患しやすく重症化が早いため、治療の効果が限定的で積極介入しにくいからと思われます。しかし、日本障害者歯科学会が発行した「Down症候群の歯科診療におけるガイドライン2022」では、歯周病の治療に対する効果について言及しています。これにより正確な診断のもと、治療の効果を見極めることを前提として、積極介入も選択肢となると考えられます。
本日は歯周病の基礎、Down症候群の口腔の特徴、Down症候群に対する歯周病治療のエビデンスを解説し、実際に歯周病治療を行った症例もご紹介させていただきます。本日の内容が皆様の口腔の健康に少しでもつながることができれば幸いです。